3年間の取組を振り返って

1 担当者挨拶

平成19年度実施取組代表 後藤 守
(平成21年度大学院GP相談・研修担当専門員・北海道文教大学教授)

北海道教育大学大学院教育改革支援プログラム(以下,大学院GP)の取組は,平成19年夏,うだるような暑い東京での文科省のヒアリングからスタートしました.現職教員院生・教育臨床実践メンター・大学教員の3者から構成される,現職教員の高度実践構想力を視野に入れたメンタリングの実践,それと3者の取組全体を視野に入れたGP相談・担当専門員によるFD活動といった重層化されたGPプログラムは,北海道の広域性を視野に入れたサテライトへの出張,出張メンタリングなどを通した,現職教員院生の修士論文作成のための研究支援の取組による,新たな実践構想力育成プログラムの構築を具現化するものであったように思います.そこでは縦軸に研究知,横軸に実践知をベクトルとした生きた研究を生み出すための磁場が形成されていたように思います.

ヒアリングでは,実践知の土壌となる経験知優位の現職教員のエネルギーを縦軸の研究知による深化を織り交ぜたエネルギーに変換させていく際に求められる「研究指導体制の力量の問題」が鋭く指摘されました.このGPプログラムは,大学教員自らも生きた研究者であり続けなければならないことを指摘されているとその時に感じました.幸い,このGPの母体になった大学院学校臨床心理専攻は,人を得たこともあって,GPの1年目終了時には,実施担当者のメンバーのうち,3名の教員が学位を取得し,さらに,教育臨床実践メンターに2名の学位取得者を組み入れることに成功しました.現職院生がこのGPプログラムで直面している「高度教育実践構想力」の課題は,とりもなおさず,われわれ教員自身の課題でもあるというこの認識は,その後のGPの取組においても継承されているように思います.

このGPの最終年度には私自身,相談・研修担当専門員の一人として加わり,FDの業務を通してこの取組のその後の様子を楽屋裏からも見ることができました.特に,このGP実践のもっとも活性度の高い時期に,2年間に渡るメンタリングをフルコースで乗り切った2008年度入学院生22名(定員9名)からなる修士論文の発表審査会は圧巻でした.プロセスは結果に反映するということばをあらためて感じさせた論文審査会でした.

最初に井戸を掘った人を大切に,と言う中国の諺がありますが,この諺以上に,この3年間,このプロジェクトを維持発展させたOBを含む院生の皆さん,学校臨床心理専攻の教員のみなさん,そしてメンターの皆さんに感謝します.特に,実施担当責任者である庄井良信先生,副実施担当責任者の植木克美先生にはこのGPプログラムを継承し,高度な水準まで発展させる推進力になられたことに感謝します.そしてまた,相談・研修担当専門員の跡部敏之先生には3ヶ月間のお願いが3年間のお願いになったことも含めて深くお礼申し上げます.

最後に一言.最終年度GP報告会のシンポジュウムの総括の中で「継承すべきGPの実践の成果は大学の課題として,きちんと位置づけるべきである」と語られた言葉の中にわれわれの願いと次の課題が内包されているように思います.

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相談・研修担当専門員 跡部敏之
(星槎国際高等学校相談役・元北海道立特殊教育センター所長)

1 事業への取り組み

私は大学院GPの一つとして採択された「現職教員の高度実構想力開発プログラム」事業の意図するものが何たるかについて殆んど理解に達しないままスタート位置についた経緯があり,今思えば誠に汗顔の至りです.初年度の12月には早くも《現職教員の高度実践構想力について考える》シンポジュームが開催され,その段階でようやく本プログラムの全貌を受け止めることができたように思います.つまり児童生徒の成長発達のきめ細かな理解に基づく支援と,変貌する昨今の社会情勢が反映された学校現場における教職員(ストレートマスターを含む)の児童生徒への指導援助に関わる専門的能力の質の向上を図るところにその目的があるという認識に立つことができました.

高度実践構想力プログラム開発のメンバーとして「教育臨床実践メンター」「相談・研修担当員」等の登用があり,メンター等は実務的には修士論文作成に伴走する形で「メンタリング」を実施し,併せて論文作成過程で派生する諸々の課題に対応する活動を進めるというものでした.

また,本プログラムは大学教員が行う「院生勤務校訪問型スーパーバイズ」への同行,「院生同士の協働研究」への支援,「院修了者の継続的研修」「大学教員とメンターとのFD活動」への参加等も含まれ極めてダイナミックな計画の下で展開されるものでした.

2 事業の振りかえり

初年度において早速開催された「高度実践構想力について考える」シンポジュームでは,「現職教員の高度実践構想力と大学院教育」「学校現場から見た高度実践構想力」「授業を通してみた大学院カリキュラムの実際」について大学教員,元教員,院修了者がそれぞれの立場から話題を提起し,議論を深め大方の参加者に共通認識が浸透していったように思います.(19年度報告書)

メンター業務の中心は「個別メンタリング」に集約されると思います.即ち,個々の院生が抱える学校現場の混沌とした課題をリサーチベースに昇華し,焦点化して研究を進める過程への支援です.時には実践メンターが自らの論文作成過程を具体的に語ることにより(メンター企画勉強会)院生の研究動機や意欲を高め,修士論文のもつ意義と方法を一層明確にしていったように思います.

また,外部講師の招聘,講義・実践演習への院修了者登用,集団メンタリングやフリーディスカッションの採用により,一層深みのある実践構想力の涵養が図られていったように感じました.研究と実践の立場の対等性を意識した開放的で循環的な環境が設定されたことにより,研究と学校・教育現場の間でパートナーとしての関係性が緊密になり,研究と実践の垣根が限りなく低くなったように感じました.研究成果が院生・院修了者の所属する学校ばかりではなく,地域や学校へ浸透しそれが拡大していくとき,高度実践構想力は螺旋状に更に発展していくことが期待されます.

子どもと直接向き合う教師や学校に対する批判の多くは期待と要望の裏返しでもあり,それらに応えるためにも,大学院で獲得した理論知や成果を実践の場に生かしていくことが重要です.いかに研究と現場との関係性を継続し相互(協働)に質を高めていくか,それがどのように児童生徒の指導援助に反映されるものなのか検証していくことが今後の課題といえるのではないでしょうか.

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教育臨床実践メンター 後藤広太郎
(北海道教育大学大学院非常勤講師・博士(教育学))

いよいよ教育臨床実践メンター(以下メンター)としての活動も残すところあとわずかとなりました.今年度は院生の皆さんと直接関わる業務に加えて,昨年度よりも出張メンタリングと新しいメンタリング形態の開発(グループメンタリング)や学会での発表活動,そして大学教員とのFD活動を充実させてきました.一昨年度や昨年度の活動内容と比べると,大学院生の皆さんと交流する機会が少し減ったためか,その分どことなく寂しい気持ちになることもあります(もっともメンターの活動が始まった当初は,あらゆることが新鮮でとにかくバタバタしており,寂しいどころではありませんでしたが).

私は,現在メンターとして修士論文をテーマに多くの現職教員院生と交流する一方で,小中学校及び発達クリニックで臨床心理士として活動しております.私自身,「メンター=研究者」と院生の皆さんに思われているように感じており,同時に「現場実践と研究は異なる次元のもの」と認識されているようにも感じていました.私は,現場職と研究職がお互いを尊重して情報を交換し合い共同して活動していくことで,社会全体へより質の高い何かを提供していくことができるのではないか,と以前から考えておりました.研究者としてのメンターが現職教員院生の方々とより良い関係を築くことが出来れば,少なくとも現場職と研究職の共同活動が現実でも成立可能と言えるのではないでしょうか.この三年間は,その想いを胸に走り続けてきた三年間でありました.

実際のメンタリング活動はと言うと,まさに試行錯誤を繰り返しながらの取り組みでした.今も試行錯誤の途中ですが,メンターとしての多くの課題が明らかにされる一方で,メンター企画勉強会やグループメンタリングなど幾つかの成果も確認されました.次年度以降,大学院専属のメンターの配置については未知数ですが,大学教員や修了生と自由にディスカッションすることが出来る「グループメンタリング」の形態は,現職教員院生の方々にとって有益な時間と場になることと思われます.

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教育臨床実践メンター 橋本道子
(元本学大学院非常勤講師・博士(教育学))

教育臨床実践メンターとしてこのGPに関わらせていただくようになり,早いもので3年が経ちました.当初は「メンター」,「メンタリング」という言葉さえ馴染みがなく,これから自分がどのような仕事をしていくのか全く想像出来ない状態でした.大学~大学院を通して認知心理学・生理心理学の領域で研究を行ってきた私が,現職教員院生の方々をサポートすることが出来るのかという不安を抱えながらの船出であったという記憶があります.こうしたGP開始時期のことで特に印象に残っているのは,後藤守先生がメンターの役割について「院生の研究に伴走していくこと」と話されていたことです.3年間の活動の中で「伴走していく」というキーワードは,メンターとしての自分の役割を考えていく上での指針となりました.

本GPでは,メンターの役割について「現職教員である院生の教育実践・研究を定期的なメンタリングにより支援する」,「研究論文作成にあたり,大学教員とメンターが緊密な連携をとって支援する」とありますが,具体的なメンタリングの内容に関して定められていません.よって我々メンターは,院生のニーズを把握しながら活動内容を対応させていく必要がありました.現職教員院生の方々は教員としての仕事を通して明確な問題意識を持っていますが,そうした問題意識をどのようにして研究的な手法に結び付けていくのか,どのように論文の形にまとめていくのかに関しては多くの方が悩みを持っています.GP始動当初は個別メンタリングのみだった活動も,サテライト校の院生を対象とした出張メンタリングや,複数の院生・修了生が参加し気軽に研究に関する疑問や意見を交換出来るメンター企画勉強会,グループメンタリング等,3年の間に様々な形態の活動に発展していきました.

通常メンターというのは,先達として支援を行い成長を促す人のことを指します.しかし本プログラムにおけるメンターの役割は,メンターから院生への一方向的なサポート体制ではありませんでした.様々な現職教員院生の方の研究に伴走させていただきながら,私は教育現場の問題に直接関わる研究内容の豊かさに驚かされることばかりでした.勤務校訪問型スーパーバイズでは,現場の先生方がどのように生徒と向かい合っているのかを肌で感じることが出来ました.私はこれまで,正確で客観的なデータや筋の通った論の進め方を重視して研究を行ってきましたが,そういったものとは別に現場の生の声の説得力・インパクトというものがあるのだと感じました.メンタリングは院生の研究をサポートするというだけではなく,私にとって教育実践者である院生の方から教育現場が抱える問題を教えてもらう機会でもありました.このように,専門領域の異なる者同士が対等な立場で話し合い研究を進めていったということが,本GPにおけるメンタリング活動の特徴だったのではないでしょうか.

このGPでメンターとしての教育の実践者である院生の方々の研究に関われたことは私にとってこれまでにない大変貴重な経験でした.現職教員院生の方々にとっても,メンタリング活動を通して経験したことが新たな視点から教育現場の問題を考えていくきっかけとなってくれたらと思っています.

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大学院GPプログラム担当職員 川端愛子
(元札幌市教育センター教育研究員)

私は,大学院GPの事務補佐を担当させて頂きました.これまでは,病院や相談機関において心理臨床の仕事をさせて頂いてきましたので,事務の仕事はこれが初めてでした.わからないことばかりの中で,大学の教員の先生方,事務職員の方々,大学院GP関係者の先生方,院生・修了生の方々に様々なことを教えて頂きながら取り組み,おかげさまで3年が経とうとしています.

大学院GPでは,平成20年度からメンター企画勉強会,平成21年度からはグループメンタリングを継続的に開催し,多くの院生・修了生の方々に参加して頂きました.私は,これらの行事のご案内や準備をさせて頂く中で,院生・修了生の方々がとても積極的に参加され,ご自身の実践や研究について熱心に取り組む姿を間近で見せて頂きました.子どもへよりよい指導・支援ができるようにと,日々真摯に学ばれる皆さんの姿勢に感動し,私自身臨床に携わる者としての在り方を考えさせられました.

そして,シンポジウムや活動報告会を開催した際には,大学院GPの運営補助として有志の院生の方々にご協力頂きました.配布資料の準備に始まり,展示物の掲示,会場の受付,記録のための録画や写真撮影,マイク移動など,裏方としての仕事にお力を貸して頂きました.このような院生の方々の陰の活躍によって,大学院GPの大きな行事となるシンポジウムや活動報告会の運営を支えて頂きました.

また,私は以前学校臨床心理専攻で社会人院生として学ばせて頂いた修了生という側面も持ち合わせており,平成21年度から開催してきたグループメンタリングでは,修了生メンターの一人として院生・修了生の方々と関わらせて頂きました.グループメンタリングでは,院生・修了生の方々から,日頃の実践を通して考えていることやこれから取り組んでいきたい研究などについて語られ,毎回,熱くディスカッションが展開されたことが印象的です.大学院GPの中で,修了生がメンターとして,実践・研究の支援というベースの基に,院生・修了生の方々と関わることのできる環境が構築されたことは重要なことであったように思われます.

これからも,大学院GPでの経験を生かして,臨床実践や研究に取り組んでいきたいと思います.この3年間の事業を通してお世話になりました皆様に心より感謝申し上げます.

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