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役職員等挨拶


学長就任挨拶

学長
蛇穴 治夫

 学長就任にあたりまして、皆様にご挨拶申しあげますとともに、今後の大学運営に関して現在考えていることを述べさせていただきたいと思います。

 ご存じのとおり、平成25年に国は国立大学のミッションを改めて定義いたしました。このことは、国立大学というものが国の税金を主たる財源として、国が必要とする人材を養成する機関であり、また研究機関として社会が直面している様々な課題に取り組む責任を持つと同時に、国の文化を研究してそれを次世代に繋ぎ、また新たな文化を創造する役割を持っているということを、改めて認識させるものでもありました。

 では、北海道教育大学にはどんな責務が課されているのでしょうか。ミッションの再定義に明記された文章から抜き出してみますと、一つには「教員養成機能における北海道の拠点を目指す」こと、そして二つ目に「地域や文化の価値に関する現代的・学際的探求を進めるため、現代社会の多様なニーズに応える地域人材の養成を併せて行う」とあります。来年度から始まる第3期中期目標期間は、このことを実質化するための6年間であると捉えなくてはなりません。

 それでは、ミッションの1つ目にあります「教員養成機能における拠点」ということについてまず考えてみたいと思います。一義的には「社会が求める資質・能力を備え、高い実践的指導力のある教員を養成」することだと考えます。今後の日本を支える子どもたちや若者が、グローバル化により多様な価値観と文化が交錯する社会の中で、地球規模の様々な課題に直面しながら生きていかなくてはならないということを踏まえますと、社会が求める資質・能力という中には、グローバルな視点に立った教育能力ということも当然含まれてくるでしょう。その意味では、本学が導入したグローバル教員養成プログラムのさらなる発展型というものを考えていくことも必要ですし、本学学生をグローバル人材とするための留学も後押ししていかなくてはならないと考えています。

 教員養成機能の拠点という中で、さらに社会、あるいは学校教育関係者から求められているのは、「学校現場に生起する様々な課題に取り組み、研究成果を学校現場に還元」することであり、加えて「専門職業人としての“学び続ける教師”というものを生涯にわたって支援する」ことだと考えています。さらに海外に目を向けた時、高等教育を整備しつつある国への協力・援助、発展途上国の初等・中等教育改善への協力・援助、これを積極的に進めていくということも、本学の機能強化に繋がる取り組みであると考えています。

 以上述べたことに対して、どのような組織と体制で臨むべきなのか。理学部が物理学科や化学科という教育研究組織を持って、全体として自然科学という学問で社会に貢献するように、教員養成学部も、例えば教科教育学、教科内容学、等々、他学部で言えば学科に相当する研究組織を確立し、全体として“教員養成学”なる学問体系を構築して社会に貢献する必要があるのではないでしょうか。その下で、学校教育の課題と教師教育に関する研究を行い、地域に対して研究成果の還元による貢献を果たしつつ、適切な教育組織により実践的指導力のある教員を養成していかなければならないと考えています。

 “学び続ける教師”の支援という点について、少し補足させていただきます。教師は、絶えず自分の知識や技能を新しいものにしていく事が求められる存在だと思います。今でも教師には、免許状更新講習など様々な研修の機会があります。今後、研修の一部を大学院レベルの内容として単位化することも検討に値すると考えています。つまり、現職教員が勤務しながら、大学で20単位程度の授業を履修すると同時に、自分の勤務校での実践を踏まえた研究指導を継続的に受ける事のできる新たな長期履修の仕組みです。それにより、一年間だけ大学に在学すれば修士、あるいは教職修士の学位を取得できるようにするという一つの案です。今後、道教委及び教育研究評議会で意見を聞いた上で方針を固めていきたいと考えています。

 次に「地域人材養成」というミッションについてお話します。これは学科を念頭においた文脈で言われていることです。音楽や美術、スポーツというのは人を慰め、そして元気づけ、人のつながりを作り、人の心を豊かにする、そういう様々な力を持っています。芸術・スポーツ文化学科はそのような芸術やスポーツの持つ力を理解し、それを専門的に学ぶとともに、ビジネス的手法と発想から、まちづくりや人々の生き甲斐づくり・健康づくりのための新たな取り組みを開発していくというような研究と人材養成を行います。少子高齢化の社会で、今後ますます必要になる人材を養成する学科だと考えています。

 岩見沢校では既に「芸術・スポーツ文化学研究」という研究書を今年4月に出版しています。それによりますと、5つの研究領域を設定して、全体として芸術・スポーツ文化学という学問を生み出すのだと述べています。一つの学問を体系立てて行う組織ということは学部そのものと言えます。国立大学としては他に類のない分野だと思いますし、現代社会の状況を踏まえますと、今後発展する可能性を秘めた分野だと思います。さらに、元々芸術やスポーツの世界には国境がなく、グローバルな世界ですから、海外に協定校を作って共同研究などにも積極的に取り組み、早い段階で学部を目指すべきだと考えています。

 国際地域学科は「<国際的な視野から、地域の諸課題解決を志向する統合的知>としての地域学」という学問を行い、北海道や函館市の地域課題に研究面から組織的に取り組んで、地域活性化に貢献するとともに、実際にその活動に力を発揮できる人材を養成します。函館という地域は、具体的に地域の国際化への対応や、地域の観光資源を活用した広域観光・滞在型観光の振興などに取り組もうとしており、函館校が研究面でも、また地域に人材を供給するという点においても、十分に地域に貢献できると考えています。国内外の自治体や大学・企業等との協定を結んで、相互に教育研究のフィールドとするなど、学生の実践的な力を鍛えて様々な分野への就職実績を積み、社会に求められている人材を養成していることを証明しながら、学部を目指すということが必要だと思います。

 以上のような取り組みにより、「教員と地域人材の養成を通じて、地域の成長・発展を牽引する大学」というものを実現したいものだと考えています。

 ミッションの達成に向けて取り組むべき事の概要を述べました。次に、入試等、いくつかの課題について、それぞれ簡単に触れておきたいと思います。

 まず、学部入試における学生確保の課題です。18歳人口が減少の一途をたどっているということは、皆さんご存じの通りです。入試に関しては数の問題だけではありません。本学の新入学生の調査において「どうしても教員になりたい」という学生の割合が、教員養成3キャンパスで、平成26年度入学生の場合、それぞれ58%・64%・77%となっておりまして、このことは大きな課題です。いかに教員志望の強い者を確保するかということは重要な問題です。このことに関連して、千葉県や奈良県の県立高校に教員養成コースを展開しているところがあると、日本経済新聞が報じていたことは興味深いと感じています。記事によりますと、強く教員を志望する生徒が最後に残るそうです。本学でも、現在エデュケーションカフェ事業を展開しており、教員を志望する高校生に人気があります。今後、高大接続という施策の中で、エデュケーションカフェ事業の発展的取り組みは、入試と絡めて検討に値するものだと考えています。

 また、入学試験については、大学だけの問題として捉えられない状況になってきました。つまり、高校・大学を通じた人間形成をどう図っていくのか、という文脈の中で入試を考えていかなくてはなりません。そのための議論を開始しなくてはならないという状況にあります。

 大学院における学生確保の問題も深刻です。現在進めている大学院改革を基本的には継承して進めて行きますが、非教員養成系大学を対象に、教員免許、専修免許を取ろうとする学生の中から、教師への志望の強い学生を積極的に受け入れるということも重要ではないかと考えます。このことは現在進めている修士課程に置く専攻の議論とも絡めて考えてみなくてはなりません。さらに、現職教員の研修、あるいは大学院での学び直しの機会がもっと増えるということが想定されますので、現職教員の再教育プログラムの充実とともに、先ほども述べました新たな長期履修の制度を整備して、積極的に大学院生を受け入れる必要があると考えています。

 次に教育を担う教員の問題です。これは教員養成学部が担う学問、あるいは専門性という問題と密接に関わる問題です。“教員の資質能力向上に係る当面の改善方策の実施に向けた協力者会議”、この会議が「教員養成系にふさわしい研究指導教員等の配置を行うため、大学院設置審査や課程認定審査に当たって、学校教育上の課題解決に資する教育実践研究業績等を重視することを明確化する」ことを提言していることにも注目しておく必要があります。

 今、本学ではテニュア・トラック制を活用しています。仕組みによっては、テニュア・トラック期間中に教員養成に資する研究に取り組んでもらい、教員養成大学の役割というものをきちんと理解してもらった上で採用していくということが可能になります。多様な学部出身の研究者がいるという、ある意味特殊な学部ですので、教員養成学部の専門性確立のためにこれは有効な方法の一つだと考えます。

 次に大学運営のための財源確保について、少しお話します。平成23年から25年までの3年間における本学の収入の構成を予算ベースで見ますと、運営費交付金が60数%、授業料等学生納付金が約30%、併せて90数%を占めています。基本的に本学は運営費交付金、学生納付金、補助金に頼っているといえます。本学にとって、数字の上で最も重要な運営費交付金について、第3期中期目標期間は、機能強化の方向性とその実績の評価に応じて、重点配分する仕組みとなります。それに加えて、学長の裁量による経費という区分での、実績の評価に応じた配分が行われることになります。

 重点配分に関する3つの枠組みで言えば、本学は「地域活性化と教育分野の全国的あるいは世界に通用する教育研究を行う大学」として、その機能強化に取り組むということになります。本学の機能強化に向けた改革を戦略的・先導的に進めることで、できるだけ多くの経費を獲得したいと考えます。さらに、科研費の採択を増やすことによる間接経費の増額、地域に貢献するという大学を本気になって作り上げる事を通じての寄附金・受託研究等の増加により、自己収入を増やしていくことも必要だと考えています。具体策をできるだけ早いうちに検討し、実行に移したいと考えます。

 学生の授業料免除等の支援策につきましては、国の算定基準も少し本学に有利になっているようです。免除基準に該当する学生には100%免除できるように財源を確保していきたいと考えているところです。

 以上、様々な取り組みについてお話してきましたが、その全てにおいて、今後は客観的なデータに基づきながら大学経営をしていく必要があります。社会に対する説明責任、国に対する様々な要求、いずれもデータを示すことが必要です。そのような観点から、IR機能をしっかり確立し、それを強化して、データに基づいて本学の教育・研究・社会貢献の分析を行う事が必要です。それを大学経営に活かし、また可視化して社会に対する説明責任も果たしていきたいと思います。

 長々と述べてきましたが、一言で表現しますと、学生には「この大学に入って良かった」、そして教職員には「この大学で働くことができて良かった」と言われる大学にしたいと考えています。学長以下法人の役員は、大学の教育・研究・社会貢献に関する基本的な方針を提示して、教育・研究に関しては現場の先生方、つまりは教育研究評議会での意見を聞き、また経営面では経営協議会委員の意見を聞いて運営していくことになります。教職員との意見交換には誠意をもって応えていきたいと思いますし、最大のステークホルダーである、教育を受ける学生の声にも耳を傾けたいと思います。皆さんと一緒に、学生と地域そして社会のための大学づくりをしたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。

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