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概要

教育大学園情報誌30号

アトリエでの制作の様子山田さんは、植物が生育場所を広げるための種子散布という現象を研究しています。その魅力について詳しく伺いました。―大学院進学の動機を教えてください。 学部の四年次に所属したゼミでは、きちんとした卒業研究ができませんでした。教員免許を取得しただけで、科学的な研究についてきちんと学んでいない状態では、大学に入った意味がなく、このまま卒業するわけにはいかないと思い、生態学を本格的に研究できる研究室に進学することを決めました。―種子散布研究の概要を教えてください。 植物は移動できないので、なんらかの方法で種子を移動させる、という適応進化が見られます。皆さんも、タンポポの綿毛を見たことがあると思います。綿毛が飛んで行くことも、風による種子散布です。私は、アリ散布植物の種子について研究をしています。―アリ散布植物とは何か教えてください。 文字通り、アリによって種子が運ばれる植物のことです。植物の中には、アリに種子を運ばせるように進化したものがあります。アリ散布植物には、付属体というものが種子の外側についています。付属体の成分はタンパク質や脂質なので、アリはそれを餌として認識し、巣に運び込むのだと考えられています。これを生態学では「植物からアリへの報酬」と言います。―研究の背景を教えてください。 アリが種子を運ぶ距離は短いですが、確かに種子は移動します。さらに、アリ散布植物では、運び込んだ種子の付属体を餌として利用した後、残った種子を巣の外へ排出するともいわれています。ところが、付属体を持たないにもかかわらず、アリを呼び寄せて種子散布している植物があるのではないかと、指導教員である今村さんが仮説を立てました。その仮説に魅力を感じて、テーマにしました。―この研究のゴールは何でしょうか? アリは付属体という報酬を得るのに対して、植物は種子を移動させることができる、というのが一般的な仮説です。それに対して、報酬のない種子をアリに運ばせ、植物が一方的に利益を得ているのならば、種子散布研究の新展開です。―検証方法を教えてください。 アリは触角で物質を識別します。種子を運ぶかどうかも触角で判断しています。そこで、においは持つが付属体を持たない植物の種子を利用して、それらをアリが巣に運ぶのかを観察します。そのために、アメイロアリというアリを採集して人工の巣に営巣させ、植物の種子を与え、運ぶかを観察します。進化的な発見を目指している割には、とても地味です。与える種子は、生の種子や、有機溶媒でにおい成分を取り去った種子を使います。これによって、アリが種子のにおいに引きつけられているのかが分かります。また、種子のにおい成分を染み込ませたろ紙を「ダミー種子」として、同様の実験を行っています。―苦労されていることを教えてください。 まず、アリの巣探しがなかなか覚えられませんでした。なにより、アリの実験ではデータをそろえるのに時間がかかります。アリに種子を与える前には、三日間の絶食が必要です。種子やろ紙を与えてからは、九十分間の観察、さらに二十四時間後と四十八時間後の観察が必要なので、アリの巣一つに対して合計五日間以上費やしてしまいます。データにするには、アリの巣が六つは必要なので、複数を並行して進める必要もあります。また、アリの健康維持のために湿度などに気を遣います。そして、においにとても敏感ですから、アリの嫌がるにおいを持ち込まないように気をつける必要もあります。―今後の展望を教えてください。 この一年間がんばったのですが、アリに運ばれた種子の数が不十分でした。この点を改善したいと思っています。しかも、アリ散布の研究は、種子がアリに運ばれることで終わりではありません。運ばれた種子がどのような運命をたどるのか、残り一年で検証して、国際誌に投稿できるような論文を執筆するのが、目標であり夢です。旭川校・教員養成課程・理科教育専攻卒業北海道教育大学大学院教育学研究科・教科教育専攻・理科教育専修1年話= 山田 幹久(やまだ みきひさ)さん報酬のない種子をアリは散布するのかインタビュアーの声旭川校・教員養成課程・理科教育専攻3 年川村 風花(かわむら ふうか)ダミー種子を用いた実験方法について、山田さんは理解しやすく説明されました。どの言葉にも熱があり、進化という現象を知的に探求する難しさや楽しさを強く感じました。インタビューを終えて、生物学への関心が強まりました。そして、常に疑問を持ち、探求する姿勢を大切にしたいと思いました。山田さん、ありがとうございました。19 Spring/Summer 2019 No.30