ブックタイトル教育大学園情報誌29号_電子書籍
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教育大学園情報誌29号_電子書籍
は分かりません。だからその都度その都度自分がやるべきことを果たしていけば、結果として、何らかの務めを果たしたということになるのだろうと思います。『新約聖書』の中に「明日のことを思い煩うな。一日の労苦は、その日だけで十分である」という言葉があるように、私は「自分の生きる意味は何だろう」と思い煩うことはありません。―教育学の研究の魅力を教えてください。 実は教育学が面白いと思ったことは、あまりありません(笑)。なぜかというと、非常にイデオロギッシュな学問だと思うからです。イデオロギッシュというのは「ある特定の価値観をあらかじめ前提としてそれを疑うことを許さない」という意味です。どの学問も基本的にはそうなのですが、教育学は特にその傾向が強い。しかし、その前提を疑おうとすることこそが学問の本質であり存在理由だと思っています。私はやはり、前提にある価値観や思想が気になります。こういった問題を考えるのは、哲学や思想と呼ばれるものです。だから私は、専門は「教育哲学・教育思想」ということになっていますが、「教育学」の研究者というよりは、「哲学・思想」の研究者であるという自己認識を持っています。―今後求められる教員の資質ときます。「遊べるのは学生のうちだけ」という人がいますが、あれほどの大うそも少ないと思います。学生のうちにしかできないことは、勉強だけです。それ以外のことは大学を卒業してから、いくらでもできます。社会人になったら今よりももっと遊べます。恋愛も旅行も、学生時代よりももっとできます。だけど、勉強だけができなくなります。大人や先輩のうそにだまされないで、自分が今、本当にやるべきことは何かを考えて、大学生活を送ってほしいです。―教育学を研究しようと思ったきっかけを教えてください。 直接的なきっかけは、高校の教員になろうと思っていたことです。教員というものは「何を」「何のために」子どもたちに教えるべきものなのかを、歴史的・社会的に考えたいと思ったためです。最初は「研究」までするつもりはなかったのですが、勉強しているうちに、やめられなくなったという感じです。―九鬼周造さんの考えの中で特に印象的なものを紹介してください。 「人間は自己の運命を愛して運命と一体にならなければならない。それが人生の第一歩でなければならない」という言葉でしょうか。彼の哲学は「偶然性」をテーマにしていますが、人生とはまさに偶然の積み重なりです。なかには不本意な偶然、つらく苦しい偶然もあるわけですが、それも含めて一つ一つの偶然を「運命」として引き受けていかなければならない。そんな思想です。―”生きる“という講義を担当されていますが、ご自身にとって生きる意味とはどのようなものでしょうか? フランクル(一九〇五?一九九七、心理学者)の言葉にあるように「日々の務めを果たす」ということに尽きるかなと思います。その務めというものが何か、具体的にはどのようなものであるとお考えですか? 前の質問に対する答えとも関係しますが、やはり疑うこと、自分の頭で考えることです。現職の教員も、その予備軍である旭川校の学生も総じて従順過ぎます。「素直」というより「従順」です。教員というものは、本来、学校教育の専門家です。しかし、例えば国の命令に対しても、それは違う、本当に大事なのはこういう教育だ、ということを批判的に考えて主張できる、そんな学問的力量のある教員がほとんど居なくなってしまいました。四十、五十年前の小・中学校の教員の書いた論文などを読むと、こんな高度なことをかつての学校教員は考えていたのかと驚かされます。今はどうですか。論文を書くどころか読む力さえない人がほとんどです。一概に今の教員や教育大生のせいにはできませんが、せめて意識の持ちようくらいは、もう少し変わってほしい。自分たちは教育の専門家になるために教育大学で学んでいるのだという意識を持ち、そのために一生懸命勉強してほしいと思います。正しい知識を持ち、大学でしっかりと勉強した人が、教員の世界を変えていってほしいです。―最後に学生に向けて一言お願いします。 勉強してください。それに尽旭川校・教員養成課程・教育発達専攻古川 雄嗣 (ふるかわ ゆうじ)先生 旭川校准教授1978年三重県生まれ。京都大学大学院教育学研究科修了。著書に『偶然と運命』(2015年)、『看護学生と考える教育学』(2016年)、編著に『反「大学改革」論』(2017年)がある。2018年8月に、本学での担当講義「道徳の指導法」をもとにした新著『大人の道徳?西洋近代思想を問い直す』を東洋経済新報社より刊行予定。PROFILE哲学者の視点で考える、教員に求められるもの研 究ファ イル普段、他専攻の先生との交流が少ないため、古川先生のお話を伺えたことは、とても新鮮で充実した時間でした。今回のインタビューは自分のこれまでの大学生活を回顧し、これから何をすべきなのか深く考える貴重な契機です。古川先生、ありがとうございました。旭川校・教員養成課程・杉森 琉奈(すぎもり るな) 理科教育専攻2年哲学者九鬼周造の偶然性と必然性の思想を手掛かりに人間形成や道徳の問題を研究されながら、旭川校で教鞭を執っておられる古川先生。哲学者であり教育者である古川先生が「教育の在り方」について語ってくださいました。インタビュアーの声くき しゅうぞう18