
北海道教育大学長 本 間 謙 二 |
本日ここに平成24年度の入学式を挙行するにあたり、北海道教育大学を代表してひとことご挨拶申し上げます。
昨年の「東日本大震災」から1年が経過しました。未だ2万人の方が帰って参りません。東北では家族を失い、土地を失い、海を失い、挙げ句の果てに、永年住み慣れた土地と家を捨てて出ていかなければならない人々がたくさんおられます。本日入学を迎えた皆さんの関係者の中にも被災された方がおられることと思います。それらの方々に衷心よりお見舞い申し上げます。それにも拘わらず、東北の方々は新しい生活を再建されるべく全力で努力をなさっておられます。学校はいまだ何も再建されていないなかで、子どもたちは心の痛みを必死でこらえて勉学にスポーツに励んでいると聞いています。私たちひとりひとりの力はそれほど大きなものではありませんが、力を合わせれば何かができるはずです。北海道教育大学の学生として、自分たちにできることは何であるのか。まずそのことを考えて、力を合わせて未来の日本のために、未来の東北のためにみんなで仕事をしていくことを誓い合いましょう。
さて、北海道教育大学の学部、大学院、養護教諭特別別科に入学された皆さんに改めてお祝いを申し上げます。あわせて、ご臨席いただきました御来賓の皆様、後援会、同窓会、保護者の皆様をはじめ多くの方に対し、心から御礼申し上げます。
まず、簡単に本学の歴史と建学の精神についてお話しいたします。ご承知のように本学は5つのキャンパスで運営しています。それは、広大な北海道の隅々にまで高等教育を行き渡らせ、北海道全域の学術と文化を高めるのが本学の使命だと考えているからです。本年度は、学部1,296名、大学院158名、特別別科22名の合計1,476名が入学しました。普段はそれぞれのキャンパスに所属して勉学に励んでもらいますが、北海道教育大学は決して小さな大学ではありません。単科の教育大学では日本で最大規模を誇る大学なのです。すべての教職員が協力して皆さんを教育していきますから、皆さんはある時はキャンパスのゼッケンをつけて、ある時は北海道教育大学の代表として堂々と大学を背負って活躍していただきたいと願っています。今日この機会に、これからはすべてが仲間として協力し合って、新しい日本を作り上げるために努力していくことを確認してもらいたいと思います。
北海道教育大学は明治9年と10年に函館と札幌に設立された小学教科伝習所に始まっています。その後、幾多の変遷を経て昭和18年に札幌校は北海道第一師範学校に、函館校は北海道第二師範学校に、旭川校は北海道第三師範学校になり、岩見沢校は昭和19年に北海道青年師範学校になります。
師範学校とは今でいえば小学校の先生を養成する専門的な学校を意味します。昔は、師範学校を出ていなければ、原則として小学校の先生になれなかったのです。昭和20年に日本は敗戦をむかえます。その時、アメリカによって師範学校の在り方、教員養成の在り方が批判されます。それで、2つの改革がなされました。その1つは、新しい時代の教員は師範学校ではなくて、大学で養成するというものです。2つ目は、教員養成の開放性といわれるものです。教員は教員養成を専門とする大学だけで養成するのではなく、必要な条件がそろっていれば、どんな大学でも養成できるというものです。
かくして、昭和24年に札幌、函館、旭川、岩見沢の各校に釧路校を加えて5分校を持った北海道学芸大学が誕生します。学芸大学とはリベラル・アーツ・カレッジを日本語にしたものです。リベラル・アーツとは「自由学芸」のことです。それは中世ヨーロッパに源を発しますが、一般的には自由人、知識人が備えていなければならない基礎的教養を意味します。つまり、本学は幅の広い教養と専門的知識を修めることを主眼に置いた大学として新たに出発したのです。その後、昭和41年に北海道教育大学と名称を変更して、卒業生のすべてが教員免許を必須とする大学となりました。
平成18年度から本学は教育、人間、地域、文化をキーワードに「教員養成課程」、「人間地域科学課程」、「芸術課程」、「スポーツ教育課程」の4つの課程を設けて、教育をはじめとして、21世紀の地域社会をリードする幅広い人材の養成を目指しています。幾多の変遷を経て60年前の本来の姿に立ち返ったのです。つまり、知識人としての幅広い教養を身につけた上で専門的な力量を持ち、地域社会で活躍する人材を養成する大学であるという本学の特徴を内外に明確に宣言したのです。だからこそ、教育理念として「先進の人間教育」、「行動する教養」さらに「高い志の涵養」をかかげているわけです。つまり、幅広い教養を備えた人間が、高い志を抱いて、社会のため人のために、世界に向かって活発に行動できる人間を教育していくというのが本学の目的であります。それが故に、「人が人を育てる北海道教育大学」を標榜しているわけです。
今、北海道教育大学は「地域人材養成を通じて、地域を活性化していく」リージョナルセンターとしての使命をさらに明確にするために、先ほどあげました3つの理念に「国際化の推進」と「新しい文化の創造」を加えて、5つの教育理念を掲げ、2つの学部を新たに立ち上げ、来年から3学部をもつ大学として生まれ変わろうと計画しています。
ところで今、日本中で「国際化」が叫ばれています。実は私は、常日頃から「国際化」を声高に主張するのには少し納得しがたい思いをしています。勿論「国際化」に反対だというわけではありません。例えば、人間という言葉は人と人との間と書きます。人はひとりでは生きていけない、人の間でしか生きていけないからです。同じように「国家、ネーション」は「インターナショナル」でなければ意味を持たない言葉です。最近、日本で盛んに国際化ということがいわれているのは、おそらく、島国日本に特有な現象であると考えています。陸続きの国々、例えばヨーロッパではEUという言葉に表されているように、国と国との間でしか生きていけないのが当然の事実です。黙っていても人々が押しかけてきて、電車の中などでは多様な言葉が飛び交っているのが当たり前の日常です。
それはそれとして、今や、ひと、もの、情報、お金が一瞬のうちに世界中を駆け巡るという時代が到来しました。これをグローバル化時代の到来と呼んでいます。ツールとしての英語を話すだけでは仕事ができない時代が来ました。何を、どのように交渉するのか。人の気持ちをどう自分に引きつけるか。仕事以外の時間でどのように自分を評価してもらうか、信頼してもらうか。そうした力量が求められます。まず、英語を自由に操らなければならないのはもちろんのことです。そのうえに、豊かで魅力的な話す内容を持っていなければなりません。日本の歴史、文化のこと、相手の国のこと、国際情勢の動向等々です。コミュニケーション能力とはそうした総合的な力のことをいいます。あなた方はそうした力をこの4年間で身につけなければなりません。そして、どんどん外国に出て行ってもらいます。そうでなければ、4年後にあなた方の働く場所はほとんど外国の人々に奪われてしまうことは間違いありません。それほど社会が求めるレベルは上がっています。仕事を世界中の若者と競って手に入れなければならないという意味でもグローバル化が進んでいるのです。これは教員を目指す人も同じです。個性を大切にしなさいといわれますが、個性、個人の個という言葉はひとが固まると書きます。元々は固まるという字しかなかったそうです。個性、個人と固まってしまう前に、柔軟にすべてを自分の中に取り込むことの方が大切です。
もうひとつ、日本の大学生は勉強しないというのが通説になっています。日本の大学生の80%以上が1週間に10時間以内の勉強しかしていないという統計があります。これで一体何を身につけられるのでしょうか。あなた方の頭の中はいまは空っぽです。そこにぎっしりと知識と体験を詰め込むためには1日5時間も6時間も勉強しなければだめです。大学は勉強し研究するところです。もしもそうした気持ちがないならば大学に入る意味はありません。小学校の先生なら今の知識でも十分だと考えているのなら、そういう人を先生にするわけにはいきません。4年間アルバイトでもしていれば会社員になれると考えている人は、絶対に仕事を得ることはできません。人間になるということは、自分で時間を作り出すということであり、その時間とともに、まるで溶けない雪を積もらせるように自分を積もらせていくことです。決して溶けない雪を降らせるのは自分です。あなた方は、まだ雪の降らせ方も知らないのですから、どこを探しても自分はいません。探し出そうとしても無駄です。自分で自分を作る。先生に、友達に、多くの人々に手伝ってもらって自分を作り出すことです。それは一生涯をかけての仕事であり、死ぬまで終わりのない作業です。あなた方は今日ただいまからその仕事に全力で取り組んでいくのです。
今日はいささか厳しい話ばかりしました。皆さんに期待しているからです。
さて、のちほど、作詞家の故・阿久悠さんが33年前の1979年に国際児童年を記念してタイムカプセルに残した「いつかやがて~30年後の子どもたちへ贈る言葉」をあなた方の先輩に演奏してもらいます。ほとんど全国でもはじめての演奏です。作曲は千住明さんです。その詩を紹介します。
いつかやがて いつかやがて
やわらかな心は石よりも固く
やさしい目差しが剣よりも鋭い時代が
ほんの幾層かの雲の向こうに来ている
詩が銃よりも強く 絵が火薬よりも激しく
言葉が弾よりも人を射る時代が
ほんのひとうねりの波の向こうに来ている
いつかやがて いつかやがて
美しいものを美しいと感じ
まぶしいものをまぶしいと感じ
やさしいものをやさしいと感じ
豊という意味を問う時
地球は青さをとり戻す
いつかやがて いつかやがて
大地もまた旅をする
コバルトに染めあげられた海原を
人々を乗せて大地が旅をする
ちりばめられた星の彼方に
きらびやかに光る空とぶ島が現れて
それもまた空を旅する |
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やわらかな心、やさしい目差しをもって、強く鋭く激しい詩と絵を作り出す。美しいものを美しいと感じ、まぶしいものをまぶしいと感じ、やさしいものをやさしいと感じる感性。豊かな感性と想像力を備えて新しい時代を作り、子どもたちに新しい世界を準備するためにあなた方は北海道教育大学に今日入学してきました。阿久悠さんが願った「いつかやがて」を実現するために、創造性豊かな人間になって、本学の歴史にすばらしい1ページを記(しる)してくれることを希望して式辞といたします。

岩見沢校管弦楽団・合唱団による演奏 |
平成24年4月2日
北海道教育大学長 本間 謙二
- 注:
- この式辞には、作詞家の故・阿久悠氏が1979年のタイムカプセルに残した詩「いつかやがて~30年後の子どもたちへ贈る言葉」を引用させていただきました。
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