第3章 これからの金融教育 | |||||||||||||
1.大学における金融教育 | |||||||||||||
北海道教育大学釧路校教授 鎌田 浩子 |
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北海道教育大学は、札幌校、函館校、旭川校、釧路校、岩見沢校の5キャンパスからなる大学であり、このうち札幌校、旭川校、釧路校が北海道全域の教育現場に密着した「教員養成」を行っている。 Ⅱ 授業の位置づけ 授業は、教養科目の「現代を読み解く科目群」の一つであり、社会科、家庭科等の教員免許を取得するための専門科目ではない。この教員養成3キャンパスの学生は教員免許が卒業要件であるため全員が何らかの教員免許を取得する。特にほとんどは小学校教員免許を取得し、その約半数は大学卒業後、実際に小学校の教壇に立つ。このため、これらの学生が金融教育の授業を受講することはそのまま北海道における学校教育における金融教育の普及につながると考えられる。また、平成24年度より本学の教養教育の大幅な改定が予定されているが、その後も「金融教育」の授業は継続される予定である。
Ⅲ 授業の実際 授業は、各キャンパスに金融教育を担当できる教員がそろっていないこと、生活科、社会科、家庭科と多角な視点から金融教育を学ぶことが重要であること、現職教員にも授業を担当してもらいより具体的に授業をイメージできるようになることが必要であることなどから夏休み期間中8月6日(金)から9日(月)の4日間の集中講義で開講した。授業は双方向(3方向)のテレビ授業で実施した。本システムでは、お互いに画像や書画及びマイクを用いて音声のやりとりができる。また、各キャンパスに大学院生のTA が配置された。ただ、夏休み期間で、他の講座でのシステム利用が重なり、最終日4日目(第13~15回)は札幌校の回線が使用できず、旭川校と釧路校は釧路校から野口泰秀教諭が双方向で、札幌校は濱地講師がそれぞれ授業を行った。受講生(登録者)は、札幌校11名、旭川校17名、釧路校28名の計56名であった。
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「金融教育」の各回の授業テーマ・発信地と担当者 |
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Ⅳ 授業の感想と今後 本授業の目的は、金融教育のできる教員の育成をめざすものである。このため当初、金融教育とは何か等の講義を行ない、学生が指導案と教材を作成しそれを基に模擬授業を行うという流れを計画していた。しかしながら、教養教育の科目として開設されたことから、その受講生の多くは1年生であり、しかも前期授業であり、学習指導案を書くどころか、学習指導要領などについての知識も浅い。このため、金融についての知識を身につけることや金融教育についての実際にふれることを中心として実施した。以下は学生の授業後に無記名で行ったアンケートの感想である。
なお、本学の実践は、「金融教育を考える小論文コンクール」(金融広報中央委員会主催)で、大学と銀行、小学校、中学校、高校の教員との連携による先駆的な取り組みが評価され、2010年12月に特賞につぐ優秀賞を受賞した。 |
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2.金融教育の体系化に向けて |
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-学習指導要領と金融教育- | |||||||||||||
北海道教育大学札幌校講師 濱地 秀行 |
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Ⅰ 金融教育とは何か 金融教育とは、いったい何だろうか? それを考えるのには、自分の生活を振り返ってみるとわかるだろう。例えば、コンビニエンスストアでアルバイトをして、5万円の給料をもらった。それで、CDや本を買ったり、友達と食事に行ったり、あるいは、卒業旅行のために貯めたり… 経済活動は常に身近なところにあり、貨幣や金融とはほぼ毎日接しているはずである。 Ⅱ 金融教育の難しさ このように、金融教育は人間が生きていく上で必要なものなのだが、日本において、金融教育を積極的に行っている学校や教員は、非常に少ない。その理由はいろいろ考えられるが、最大の要因は、文部科学省の学習指導要領にあると思われる。
事実、現在の日本では、「金融」という科目は存在していない。また、金融にもっとも近い「経済」という名前がついた科目は、高校・公民の「政治経済」だけである。そして、金融教育に含まれるべき内容は、社会科(高校の地歴と公民を含む)と家庭科、小学校の生活科、さらには道徳や総合的な学習の時間など、実に幅広いところに散らばっている。それぞれの教科にはそれぞれ目標があり、必ずしも満足できるような金融教育ができるとは限らない。しかも、それぞれが個別に授業するということは、体系的に金融教育を学ぶことなど、とてもできないのだ。このことが、日本における金融教育をより難しくしているのである。 Ⅲ アメリカの金融教育 日本の金融教育の方向性を考える上で参考となるのが、アメリカの金融教育である。ここでは、それぞれの国の金融教育に対する取り組みについて見てみよう。 Ⅳ 金融広報委員会の「金融教育プログラム」 日本の体系的な金融教育について、注目しなければならないのが、金融広報委員会が2007年に出した「金融教育プログラム」である。このプログラムには、金融教育の目標と内容がまとめられているが、特に、さまざまな教科に散らばっている金融教育の内容を積み上げ式に体系化してあるのが特徴である。従来の金融教育の研究においては、それぞれの教科・科目の一単元程度の中での実践例の紹介は数多いが、これほどまでに体系化しているものはないだろう。また、その体系化されたプログラムに沿った形での指導計画の例が、それぞれの学校のさまざまな教科(中には、特別活動までも含まれている)ごとに、細かく載せられている。だが、金融教育を行うときに、「これさえあれば何でもできる」と言ってしまうことはできない。それは、先ほど書いたように、学習指導要領の存在があるからである。 Ⅴ 金融教育の体系化に向けて とは言うものの、従来のように、学習指導要領にしたがって、各教科でバラバラに金融教育を行うことは、これまでの教育が継続されることを意味し、その意味では、やはり金融教育の体系化が必要となる。そこで、「金融教育プログラム」を参考にしつつ、しかし、それとは逆に、学習指導要領から金融教育に関する部分を抜き出して、それを体系的に組み上げていくという方法が考えられる。ここで必要なことは、次の3点である。 これをきちんとしないと、日本の教育の実情に合わせた、実効性の高い金融教育を、実際の学校券場で行っていくことはかなり難しいだろう。 参考文献 |